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   研究対象:奇妙な寄生性甲殻類「フクロムシ」                                                                           

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フジツボ下綱(Cirripedia: Rhizocephala)に分類されるフクロムシは、ヤドカリ、カニ、エビなど多様な甲殻類に寄生する寄生性

甲殻類です。甲殻類に特徴的な外骨格や体節構造を完全に失っており、極めて独特な形態を示します。                       

フクロムシは根のような器官を宿主の体内に張り巡らせて宿主の生殖腺を侵食します。その結果、宿主は生殖能力を喪失してしまうため(寄生的去勢)、子孫を残すことができなくなってしまいます。

フクロムシは甲殻類宿主にとって脅威的な寄生者と言えるでしょう。

​ 主に採集しているフクロムシ類

ケアシホンヤドカリとフサフクロムシ.jpg

​フサフクロムシ

​宿主ケアシホンヤドカリ

ホンヤドカリとナガフクロムシ.jpg

​ナガフクロムシ

​宿主ホンヤドカリ

イソガニフクロムシ2_edited.jpg

​イソガニフクロムシ

​宿主イソガニ

 

​ 主な採集地

朝里_edited_edited.jpg

​北海道小樽市

千倉1_edited_edited.jpg

​千葉県南房総市

西鳥取_edited.jpg

​大阪府阪南市

 

 

​生態から分子レベルに至るまで、フクロムシの寄生戦略を明らかにする研究を進めています。

   テーマ1. フクロムシにおける生活史と季節的性比変動の調査                                                                                     

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フクロムシは夏にメスの仔を多く産み、冬にはオスの仔を多く産むという極端な季節的性比変動を示します(ここでいう性比とは、

母親が産む息子の割合のことです)。

私はフィールド調査を通して、「寄生率」や「メス幼生とオス幼生の出現時期」、「胚発生の時期」などを調査し、フクロムシの性比変動の実態とその​適応的意義について調査しています。

​​

​関連論文

1. フサフクロムシの生活史と季節的性比の変動(Kajimoto et al., 2022)​ 

   Accepted manuscript(Zipファイル)はこちらからダウンロード可能です。

   テーマ2. フクロムシにおける性決定や性分化、性比変動を担う遺伝子の探索                                                                        

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私の研究により、フサフクロムシではメスとオスの未受精卵の段階から染色体数が異なることが明らかになりました(メス:n = 16,

2n = 31;オス:n = 15, 2n = 30)。

このことから、メスがもつ1本の余剰染色体が性染色体として機能している可能性が示されました。これは、フサフクロムシの余剰染色体上には性決定遺伝子が存在する可能性があり、性決定システム「OW/OO型」という動物界でも極めて稀な性決定機構が働いている

ことが示唆されました。さらに、「OW型+季節的性比変動」を示す生物はこれまでに報告がありません。

現在、フサフクロムシの遺伝子発現解析を通じて、性決定に関与する候補遺伝子の特定を目指しています。

​関連論文

​1. フサフクロムシのキプリス幼生の雌雄における比較トランスクリプトーム (Kajimoto et al., 2024) 

​  Accepted manuscript(Zipファイル)はこちらからダウンロード可能です。

2. フサフクロムシにおける余剰染色体による性決定(Kajimoto et al., 2025)

    ​*エンバーゴ期間が経過したらAccepted manuscriptを公開する予定です。

   テーマ3. フクロムシ幼生がヤドカリ宿主に定着する機構の解明                                                                                           

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一般的なフジツボ類(完胸目)は、ほとんどが雌雄同体種(1個体の中にメス機能とオス機能をもつ)です。タテジマフジツボなどで発見

されている定着関連遺伝子は幼生期に性差なく発現し、岩盤や船底など無機基質への定着に関与すると考えられています。

一方、雌雄異体種(メスとオスから成る個体群)のフクロムシでは、これらの定着関連タンパク質遺伝子を保持しているかどうかも

含め、宿主への定着機構はほとんど解明されていません。

フクロムシのメス幼生は宿主の体表に定着し、オスは宿主に寄生した成体メスの未成熟な生殖器官に定着します。つまり、雌雄で異なる基質に定着するという点で、雌雄同体のフジツボとは異なる定着戦略をもつ可能性があります。

現在、フクロムシの雌雄で異なると予測される宿主定着メカニズムの分子基盤の解明に取り組んでいます。

   テーマ4. フクロムシによるオスヤドカリのメス化機構の解明                                                                                             

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フクロムシに寄生されたヤドカリやカニなどの宿主は、生殖機能を失うだけでなく、オスの二次性徴(メスより大きな体や発達した

ハサミ脚)の形成が抑えられ、体の形がメスのように変化します(形態的メス化)。

私の研究により、この形態的メス化の程度は、寄生するフクロムシの種や、宿主となるホンヤドカリ類の種類によって異なることが

明らかになりました。しかしながら、フクロムシがどのような分子メカニズムによって宿主の形態をメス化させるのか、その分子基盤はほとんど解明されていません。現在、形態的メス化の分子基盤の解明に取り組んでいます。

​関連論文

1. フクロムシ類によって誘導されるホンヤドカリ類の形態的雌化(Kajimoto et al., 2025)

 掲載論文(PDF)はこちらからダウンロード可能です。

   サブテーマ1. フクロムシ寄生による宿主のメス化が宿主とつながりのある第三者に及ぼす影響                                       

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フクロムシは、カニ宿主のハサミ脚サイズを短縮させたり、自分が宿主から落ちないように宿主の脱皮を抑制したりします。

私は、この寄生による宿主の形質変化が、捕食者など宿主と関わる第三者にも間接的な影響を及ぼすのではないかと考えました。
私が実施した野外実験により、フクロムシによる寄生が直接的に宿主の被食率を高めるわけではないものの、寄生によってハサミ脚が

短くなるなどの形態変化が、間接的に被食リスクを上昇させることが明らかになりました。
このことから、フクロムシ寄生は宿主の形態を変化させることで、生態系内の相互作用に影響を及ぼす可能性が示唆されました。

​今後は、「宿主の餌生物(被食者)」や「宿主に定着するフジツボやゴカイなどの固着生物」にも、フクロムシ寄生がどのような影響を

及ぼすのかを、(時間があれば)調査していきたいです。

 

​関連論文

​1. イソガニフクロムシによって誘導されるイソガニ宿主の形態変化が被食リスクに及ぼす影響(Kajimoto et al., in press)

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